After塩原JUNCTION
2019/02/15(Fri)→02/19(Tue) @IZUMO GALLERY
『アフター塩原ジャンクション』
のキックオフに関して(塩原俊之・著)
先日、宮城県は石巻市で演劇を上演する機会を頂きました。
2011年3月11日の日本にいて、この地名を一度も聞いたことがないという方はかなり少ないと思います。実際、この時点では僕もこの土地の名前を聞いたときに真っ先に思い浮かぶのはやはりあの日のことでした。
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石巻で上演した『いまこそわかれめ』という作品、端的に言えば「大切な人がいなくなってしまうということ」を描いています。
石巻に先駆けて行われた東京での上演も、もちろんエンターテイメントとしてとても自信のある作品になったのですが、こういった作品を、石巻という土地で上演することによって、同じ作品でも全く別物になるということを感じました。
ゆったり流れる旧北上川、中瀬公園で遊ぶ子供たち、2階まで泳いで逃げたと仰っていた呉服屋の90にもなるお母さん、所々歯抜けになっている住所の番地、あの時間で止まってしまった時計、跡形も無く全てが流されてしまった南浜と、すぐそばで沢山の人々を救った日和山。
あの土地で見て感じて沢山のものを受け取り、人が、その身体で上演することによって、作品の性質も変わり表現の飛距離が伸びてもっともっと遠く深くへリーチしていくのを感じました。
「いしのまきへ来て下さって、本当にありがとうございます」と感想をくれた石巻西高の演劇部の子達の表情がとても印象深かったです。冗談でも「いしのまきでずっと演劇をやって下さい」なんて言われてしまっては、もう心が虚実切り離せないくらいには動いてしまったし、この場所を去り難し、この人たちと別れ難しが、作品に多大な影響を与えただろうなと思いました。
演劇というのはどうしても生もので、良くも悪くも人間の意志や状態が介在してしまうところが面白いなと思います。もちろん、作品にそぐわない状態や過剰な感情は板の上に載せないように、あくまでも演出家の目指すところを、ひとつの見せ物として上演する作品作りをしますが、時に、そういった今の【状態】を全部載せした、今、ここで、この人たちとしか作れない作品を作ってみたい。そう思ったのが今回の企画のスタートでした。
本企画では「いつ」「どこで」「だれと」「なにを」「なぜ」「どのように」やるのかを、5W1Hなどの【意味性】をとことん追求したものづくりを目指しています。
話は少し逸れますが、今年大ヒットした映画『カメラを止めるな!』を観た時に、手法や描いていることがあまりにもクラッシックスタイル(三谷幸喜さんや、それこそアガリスクがゴマンと作ってきた「ショー・マスト・ゴー・オンもの」であった)でありながら、それが世間に受け入れられ、爆発的に拡大上映されていく中で「複製可能なコンテンツ」の強さを知り歯噛みしたのと同時に、演劇という複製不可能、かつ超ハイコストハイリスクなコンテンツで出来ること、表現するべきことはどんなことだろうと考えていました。
(※ちなみにカメ止めはとても面白かったです。そしてあの作品の一番の価値は、やはりどんなにクラッシックスタイルだとしても「あのメンバーで」「いま」あの作品を「作り上げた」ことだとも思っていますが。)
そういったものを、演劇でなら、もっともっと【意味性】に拘ったものづくりが出来る、するべきことなんじゃないかとの考えが浮かびました。もちろんその上で、きちんとお客様に楽しんで頂けるものづくりをしなきゃあいけないってのが、大変でしかしやり甲斐のあるところなのですが。
それと併せて私事ですが、僕は今現在、演劇を始めた時から12年近く所属している劇団を、休団しております。その意味性も考えた時に、組織にいる時は曇ってしまっていた「僕が本当にやりたいこと」と、この企画の中で少しでもちゃんと向き合えたらいいなと思っています。
上記の色々なことを考え、「今」、「一番やりたい演目」を「やりたい人」とやろうと思い、皆様にお声掛けをし、この企画はスタートしました。
また、ここまでは塩原自身の自分勝手な想いを綴ったものなのですが、もし希望が叶うならば、この僕がやりたいことで固めたこの企画が、僕を通して参加した皆様の良き未来へ繋がっていく【道】になってくれればこんなに嬉しいことはないとの願いを込め『アフター塩原ジャンクション』と題させて頂きました。
この企画が、僕達の演劇人生、そして観に来て頂いた皆様のそれぞれの人生においてとても大切な意味性をもった人間交差点になればいいなと、切に願っております。
きっと、今この文章に辿り着いて、あなたがそれを読んでいることにも、何かしらの【意味性】が存在しますよ。
人生なんて一秒後には何があるか分からないから、一緒にやりたい人がいるうちに、観て欲しい人がいるうちに、この言葉をちゃんとこの世に発信しておきます。
(2018年11月某日 塩原俊之)