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塩原JCT収録作品セルフライナーノーツその3「いまこそわかれめ」

2018年に誕生し、宮城県はいしのまき演劇祭でも上演され好評を博し、アフター塩原ジャンクションの出発点にもなった、たすいち目崎剛の傑作二人芝居が早くも再演!卒業シーズンには誰でも一度は耳にしたことがあるだろう、あの名曲をめぐって、力強く生きぬくことを教えてくれる卒業モノのマスターピース!

今回の収録作品の中では最も新しく、2018年に作られた本作。

この作品をやれたことが、もっと言えば石巻という土地で本作を上演した経験が、今回の『AFTER塩原JUNCTION』を立ち上げるキッカケにもなっています。詳しくはトップページにて。


作・演出の目崎くんを初めて知ったのは2011年のこと。

当時、風の噂で「12ヶ月連続で毎月公演を打ってる、ちょっとどうかしてる劇団があるらしい」という話を聞いた。皆さんご存知の通り、この年の3月には日本ではとても大きな出来事があったので、その月の公演だけは「延期」という形になってしまったのだが、その延期した公演は翌年に見事復活上演し、それを観に行ったのが主宰劇団「たすいち」との出会いでもあった。(ちなみに来月、その作品の再演があり塩原も出演することが決まった。)


以後、たすいちの公演はもちろん、目崎くんが脚本や演出を担った作品を多数見てきた中で、今回のこの「いまこそわかれめ」という作品は中々に異質な一作だな、と思ったのが台本を渡された時の最初の印象でした。

というのも、それまでの目崎くんの作品に比べて圧倒的に「誰かの目線」で描かれていて「誰かの見たい景色」や「誰かが掛けて欲しいと思っている言葉」などで構成されている、質感みたいなものを感じたのです。誰かってのはもちろん、作家の目崎剛にほかならないわけですが。

もちろん今までの作品だって僕が気付いていないだけでそうだったんだけど、この作品を知ってから目崎作品を改めて見返すと「なるほど」と一本の補助線が引けて、とても理解しやすくなったのを覚えています。





それから、ちょうどこの作品の出演オファーを頂いた「時期」というのも、僕にとってはとても大きな意味性を持っていて、それは若干ネタバレを含むのでここでは明言を控えますが(と言ってもネタバレしてても充分に、というかより楽しめる作品だとも思っていますが一応)上演する「人」や「時」や「場所」や「立場」などで、沢山の意味性が生まれる良作だなと思っています。このことは塩原の自身のブログでも少し触れています。


それを裏付けるに相応しいかどうかは分かりませんが、稽古場でよく目崎くんがこの作品を指して「テキスト上では、決して面白い作品ではない」という言葉を使っています。これは逆に言えば「やる人、やり方、想いや場所、そういったあらゆる要素」によって幾らでも面白くなる、懐の深さをもった作品という意味であると思って、それこそが「演劇」のひとつのスペシャリティであり「AFTER塩原JUNCTION」を通して僕が実践したいことのひとつでもあったりします。もちろん、その「あらゆる要素」の中にはその日に観に来て頂いた皆様自身のことも含まれるんだぞ、というのはあえてちゃんと書いておきます。


また、扱っている出来事やテーマの受け取り方は人それぞれだけど、同時に普遍的な価値も持っていて、人間交差点的な位置に置くに相応しい塩原jctのフラッグシップ作品であることはこの場で強く主張しておきたいです。


かなり僕の思考と本作の考察については深いところまで潜っているのですが、これ以上書くと「うわ…なんか面倒くさい…」と思われる可能性が高いので、ここでは割愛させて頂いてアフターイベント辺りでもう少しお話できたらなと思います。


まぁそんな小煩い考察なんか抜きにして、普通にエンターテイメントとして楽しめるところもこの作品の売りではあるので、まずは深く考えずに素直な目線で楽しんで頂けましたら幸いです。

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